私56歳、夫58歳、定年を5、6年後に控え、仕事のストレスや更年期と戦う真っ最中の夫婦である。
時折、定年後の暮らしは田舎暮らしがいいか、都会暮らしがいいか何となく会話することがある。当然私は便利な暮らし、年老いても安心のある暮らし、車で買い物も病院にもすぐに行ける都会暮らしを望んでいる。
よく定年後に田舎暮らしを望んで移住し、慣れない畑仕事をしながら老後を送っているご夫婦の姿を目にすることがあるが私は心の中で「病気になったらどうするの」とか、「せっかくの定年後に楽しいお芝居を見たりおいしい食事をする場所がないじゃない」と感じながら、私には絶対無理と夫にいつもそう言ってきた。
昔から衣食住や人間関係までもあまり欲のない夫は当然環境に対してもシンプル志向であることは想像していた。欲のない夫はそれさえも私に言わず、一言「好きにすれば」と言っている。
半年前から大分県久住町に住む私の両親が二人とも体調をくずし、私は頻繁に看病や手伝いに行くようになった。その町は町といっても20分も歩けば高原、草原、畑、牛、馬が目にとびこみ、歩いている人の姿は見ないといった全くの田舎である。遠くから看病に来る娘の私は、片道3時間の道のりを仕事の疲れと更年期の体長の悪さで自分が倒れてしまうかもしれないという不安でいっぱいの看病であった。
しかしある時、不便な土地での買い物はどこで?と思っていた矢先、隣(といっても100m先の)の方からいただく新鮮な野菜、しばらく歩けば放し飼いの鶏の卵の販売機、山あいの川で釣った川魚をいただき、なんともありがたい御馳走かと思ったものだ。またある時は、看病に疲れた体で外へ出てみると満天の星空。真夏の夜風は心と身体にやさしく、看病疲れを一掃させてくれたものだ。
ほぼ半年通う頃、何となく自分の身体が軽く感じられるようになっていた。疲れがとれていくような感じがして両親の元へ行くことが楽しみになってきた。不思議なものだ。私の心の中で何かが変わっていく気がする。デパートも映画館もレストランもないけれど、昔子供の頃に当たり前のように感じていた空気、土、水がここにはある。今現在の身体には、なによりの薬だ。
私の心を半年で変えてしまった田舎暮らしへの魅力、夫にはまだ何も言ってはいない。






心の変化










